(この記事は2014年5月7日時点の情報です)
谷口栄治 先生(脳神経外科)
「脳卒中」「頭部外傷」 こんな時はできるだけ早く脳神経外科へ。
たにぐち脳神経外科クリニック
【住所】広島県東広島市西条本町12-2 木阪クリニックビル2F
【TEL】 082-421-7888
脳卒中で苦しむ人を1人でも減らしたいと予防にも力を入れる谷口先生。対話を重視した診察が患者に喜ばれている。
頭の病気やケガは手遅れになると怖そうなので、すぐに受診すべきか、しばらく様子を見てみるか、判断に迷うことがありますよね。例えば、「足がもつれて上手く歩けずびっくりしたけど、すぐに普通に歩けるようになった」という場合、皆さんならどうしますか?
今回は、東広島市西条にある、たにぐち脳神経外科クリニックの院長、谷口栄治先生に、脳梗塞・脳出血の前兆として起こる症状や、くも膜下出血で見られる頭痛の特徴、脳卒中にならないための予防についてお話を伺いました。
また、頭を強くぶつけた時の対処についても教えて頂きましたよ。頭部外傷ではどんなことに注意が必要か?「打ち所が悪い」とはどこのこと? たんこぶができるのはなぜ?といった質問にも答えて下さいました。
脳卒中はいきなり倒れて発症するイメージですが前兆はあるのですか?
脳卒中は突然襲ってくる恐ろしい病気です。自宅で、職場で、電車の中、旅行先で、買い物をしていたら・・・と、いつ、どこで発症するか分かりません。
ですが、脳梗塞や脳出血には一過性脳虚血発作といって、病気を発症する前に前兆のようなものがあり、「もうすぐ大きな発作がくるよ!」と脳が教えてくれることがあります。
大きな発作で倒れてしまう前に、一過性脳虚血発作で病気に気付くことができれば、脳へのダメージが少ないのは言うまでもありません。一過性脳虚血発作はいわば、病気に気付く最後のチャンスなのですが、一過性脳虚血発作という言葉自体ご存じない方も多いようです。
また、一時的な症状として見過ごされてしまうことが多く、「おかしいな?」と思っても、すぐに症状が消えたので安心して、病院に行かずに様子を見ていたら、数日後に脳梗塞を発症した例も少なくありません。
いきなり大きな発作とともに脳卒中を発症することもありますが、病気の前兆として主にどんな症状があるのか、知識として知っておくと良いと思います。
「脳梗塞」「脳出血」の兆候として見られる症状は?
左右どちらかに半身麻痺が出ることが多いです。右の手足だけがしびれる、左の手足だけ感じ方が鈍くなるといった場合は、全部が全部とは限らないんですが、一過性脳虚血発作が疑われる症状だと言えます。
両側なら安心というわけではありませんが、「片方だけ」というのはポイントで、日常生活の何気ない動作から半身麻痺に気付き、脳卒中の早期発見につながることがあります。
例えば、食事中に箸を落としてしまい、茶碗を持つ左手は何ともないけど、右手に力が入らないことに気付いた。持っていたカバンがぽとんと手から落ち、拾おうとしたら持っていた手と同じ側の足に力が入らず、うまく立ち上がれなかった、等・・・。
大脳に障害が生じると運動機能に問題が起こることが多く、意識していないのに手から物が落ちることは、半身麻痺でよく見られます。
他に、日常生活で気付く症状はありますか?
小脳に障害が生じた場合は、体をスムーズに動かしたり、バランスを保つことが難しくなります。「すぐにつまずく」「足がもつれて上手く歩けない」「歩き方がおかしい」というように、歩行がスムーズにいかないことで異変に気付くことが多いです。
例えば、自分はまっすぐ歩いているつもりでも、どんどん右の方へ寄っていってしまう、といった日常生活での何気ない気づきから、脳梗塞が発見されることもあります。
また、めまいや視界の異変も、脳梗塞が起こりかけているサインかもしれません。よくあるのが、いつも同じ側ばかり人や柱にぶつかるケースです。両目はちゃんと見えているのですが、どちらの目も視野の半分が欠けていて、右半分もしくは左半分の視界が見えていないことがあるんです。例えば食事をする時、右の方に置いてある料理ばかり手を付けていて、左の方にあるお皿は料理が減っていないことから視野の異常に気づくこともあります。
あとは、言葉がスムーズに出ないといった言語障害ですね。頭の中にはその言葉が浮かんでいるのに、言葉として出てこない。ろれつが回らなくなって、会話がスムーズにできないといったことから、脳梗塞が見つかることもあります。
「くも膜下出血」の前兆は、脳梗塞や脳出血と違うのですね。
くも膜下出血では、激しい頭痛が起きるのが特徴です。
くも膜下出血とは、脳の血管にできた動脈瘤(こぶ)が破裂して、「くも膜」と脳の表面を覆っている「軟膜」との間(くも膜下腔)に出血が起こる病気です。動脈瘤が破裂する前からすでに出血が起きていることが多く、大きい発作が起きる何日か前から、激しい頭痛(軽い場合もあります)が現れます。
一般的に、くも膜下出血ではない頭痛の多くは偏頭痛と緊張型頭痛です。若い頃から頭痛持ちであったり、筋肉が緊張することで頭が痛くなるものが大半ですが、普段ほとんど頭痛がないのにいきなり強い頭痛があった場合や、もともと頭痛持ちの方でも「これはいつもの頭痛とは違う」と感じたり、また頭痛に伴い、嘔吐、めまい、物が二重に見える、といった症状がある場合は、くも膜下出血を疑って早めに受診することをおすすめします。
脳梗塞や脳出血は高齢の方に多い病気ですが、くも膜下出血は30代、40代の若い人でも比較的かかりやすい病気です。頭痛はありふれた身体不調の一つで、病気のサインを見逃してしまいがちですが、急な頭痛やいつもと違う頭痛は、くも膜下出血の警告頭痛であることもありますから注意が必要です。
発作が起こった時は、どうすればいいですか?
一過性脳虚血発作やくも膜下出血の警告頭痛を疑ったら、症状が落ち着いたとしても油断せず、早めに受診してください。症状が治まると「自然に治った」と思うかもしれませんが、一時的に血流が良くなって症状が和らいだだけかもしれません。その数日後、数か月後に、今度は大きな発作がやってくる可能性もありますから、早めに適切な処置を受けるようにしましょう。
また、倒れて意識を失うような発作が起きた時は、すぐに救急車を呼んでください。自分の家族が突然倒れてしまったら、怖くてパニックになってしまいますが、まずやることは「119」番に電話です。救急であることを伝え、慌てず落ち着いて、相手に聞かれたことに答えましょう。
救急が到着するまでは、できるだけ頭を動かさないようにし、呼吸ができる状態で静かに寝かしておいてください。
脳卒中は一刻を争う病気です。早めの治療が鍵となるため、「様子を見よう」というのは禁物。身近な人に発作が起きた時は、冷静かつ迅速に対応することが大事です。
そもそも、どうして脳卒中は起きてしまうのですか?
脳細胞が働くためには、酸素が必要です。酸素を送るのは血液ですから、血液の通り道である血管が詰まったり、破れてしまうと、酸素や栄養が行き届かなくなり、脳細胞が壊死してしまいます。また、出血があった場合は、流れ出た血液が脳細胞にダメージを与えてしまい、脳に障害が起こります。このような脳血管障害(疾患)の総称が、「脳卒中」なんですね。
脳卒中には3種類あり、血管が詰まって起こるものが「脳梗塞」、血管が破れてしまうのが「脳出血」、同じ出血でも血管にできた動脈瘤(こぶ)が破れて、くも膜の下に出血するものが「くも膜下出血」です。
この中で日本人に圧倒的に多いのは脳梗塞で、脳卒中全体の3/4の割合を占めます。脳梗塞はさらに3つのグループに分類でき、細い血管が詰まって起こる「ラクナ梗塞」、太い血管が詰まって起こる「アテローム血栓性脳梗塞」、心臓の中で出来た血栓(血の塊)が脳の太い血管で詰まって起こる「心原性脳梗塞症」があります。
<血管が詰まる>
●脳梗塞 ・・・「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳梗塞症」
<血管が破れる>
●脳出血
●くも膜下出血
脳卒中は以上のように分類されますが、これらのうち「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「脳出血」は、病気を引き起こす危険因子に共通点があります。
それは、「動脈硬化」が大きく関係していることです。
動脈硬化だと脳卒中になりやすいのはなぜですか?
動脈硬化とは文字通り、動脈が硬くなってしまう状態です。動脈が硬くなると血管内腔が狭くなって血流が悪くなり、血管が詰まったり破れやすくなります。そのため、脳や心臓などの重要な臓器に酸素や栄養が行き渡らなくなり、脳卒中や心筋梗塞といった深刻な病気を引き起こしてしまうのです。
加齢とともに血管が衰えることで、動脈硬化が起こるのは仕方がないことですが、多くの患者さんの場合、「高血圧」「糖尿病」「コレステロール」などが複合的に重なって動脈硬化を進行させます。いわゆる「生活習慣病」が、動脈硬化の大きな要因と言えます。
近年、若い方にも生活習慣病が増え、脳卒中も若年化傾向にあります。年齢を問わず、生活習慣病を改善・予防して、「動脈硬化にならない」→「脳卒中にならない」ようにしていきましょう。
脳卒中にならないためのアドバイスをお願いします。
脳卒中をはじめ、様々な病気の引き金ともなる生活習慣病を改善・予防することです。そのためには、「禁煙」「バランスのとれた食事」「運動」を心掛けること。
ストレスに関しては、それが直接、脳卒中を引き起こす要因ではないですが、ストレスが溜まるとタバコやお酒の量が増えたり、寝不足になってしまって、生活習慣病を悪化させる原因になるので、そういった意味では良くないと言えます。
また、ご両親が脳卒中を経験されていると、自分もかかりやすいんじゃないかと心配される方もおられますが、基本的には遺伝はあまり気にしなくていいと思います。遺伝よりもむしろ、生活環境が似ていることで、親子が同じような病気にかかることが多いです。
例えば、濃い味付けが好きなお母さんが高血圧だと、そのお母さんが作った食事を食べて育った子供はやはり濃い料理が好きで、高血圧になる可能性が高いです。同じ家庭で生活している家族は、嗜好も生活習慣も似ますので、その点では家族歴を気にされた方が良いかもしれませんね。
先ほど、動脈硬化の危険因子として「高血圧」「糖尿病」「コレステロール」などを挙げましたが、この中でも脳卒中の患者さんのほとんどにみられるのが高血圧です。高血圧はその名の通り、血管や臓器に高い圧力がかかって大きな負担を与えている状態です。脳血管にも悪影響を及ぼすリスクが高まるため、塩分の取り過ぎには注意して、高血圧を防ぐようにしましょう。
有酸素運動を行うとことで血圧が下がり、食塩の排泄が促進されますので、普段の生活に軽い運動を取り入れるなどして、できることから少しずつ生活習慣を改善してもらえたらと思います。
清潔感溢れる明るい院内。場所は西条駅のすぐ目の前、木阪クリニックビル2階
次に、頭部外傷について伺いたいのですが。
頭を打った時に怖いのは、脳の損傷と頭蓋骨の内側で出血が起こることです。コツンと軽くぶつけたくらいなら、それほど心配することはないと思いますが、強くぶつかって意識障害がある場合や、次のような症状が現れた場合は、すぐに脳神経外科を受診しましょう。
・ぼんやりしてくる、放っておくとすぐ眠ってしまう
・頭痛がだんだんと強くなる
・嘔吐する
・けいれんを起こす
・鼻血が続く、鼻や耳から水分が流れ出る
・物が二重に見える
ぶつけた直後に異変がなくても、数時間後、翌日、ときには数日経ってから、症状が現れることがあるので、強く頭を打った時はその時だけでなく、しばらくは気を付けて様子を見るようにしてください。
頭を強く打った日は、入浴やアルコール類などの刺激物は控えて、できるだけ静かに過ごすようにしましょう。
たんこぶができる方が良いのでしょうか?
たんこぶというのは、頭皮と頭蓋骨外の間で内出血が起こって腫れている状態です。頭蓋骨の内側で出血が起きたり、脳に障害が起こると大変なんですが、頭蓋骨の外側が腫れているものなので、たんこぶ自体はそれほど心配はいりません。
ただ、大きなたんこぶができたということは、それほど強い衝撃を受けたということで、もしかしたら内部にも何か起きていることが十分考えられますから、注意する必要はあります。
「打ち所が悪い」とは、どの部分のことですか?
打った場所はあまり関係ないと思います。心配なのは場所よりも、ぶつけた時の衝撃の強さですね。
ただ、前方だったら反射的に手をつくことができますが、後頭部の場合は無防備な時に、ごつーんと強打してしまうことが多いので、頭部への衝撃が大きいように思います。
子どもが頭を打った時に、受診すべきか迷うのですが。
頭部外傷で受診される患者さんで、とりわけ多いのはお子さんです。ベッドから落ちた、こけた時に頭を打った、遊具に頭をぶつけたなど、お母さんがどんなに気を付けていても、子どもはケガをしてしまうものです。
そんな時、一昔前なら「あぁ、これくらいなら大丈夫よ」と言ってくれるおじいちゃん、おばあちゃんが周りにいてくれたのですが、最近は核家族で子育てをする家庭が増え、応急手当や看病の仕方を助言してくれる大人が身近にいないのが現状です。お母さんは1人でますます心配になって、特に小さなお子さんだと、軽い打撲でも慌てて診察に連れて来られることが多いです。
子どもの頭部外傷では、ほとんどの場合は何も問題ないのですが、だからと言って「今どきのお母さんは慎重すぎる」とは私は思いません。「本当に大丈夫かしら?」と不安な気持ちのまま様子を見ているのでしたら、受診してもらった方がいいと思います。
と言うのも、頭部外傷では稀に怖いケースがあるんです。ほとんどが「心配して損した」という結果なんですが、「早めに受診して良かった」ということも中にはあるんですね。
それに何より、医師から「大丈夫ですよ」とお墨付きをもらえば、お母さんも安心できて、ホッと笑顔が戻ると思います。
高齢の方の頭部外傷で気を付けたいことは?
高齢の方の場合、頭部外傷をきっかけに「慢性硬膜下血腫」を発症することがあります。慢性硬膜下血腫とは、頭蓋骨のすぐ内側にある硬膜と脳の間に、じわじわと血液が溜まっていく病気です。頭を打った時点では特に症状がなくても、受傷後3週間から半年かけて、「頭痛」「嘔吐」「脱力感」「ふらつき(片麻痺)」「認知症の症状」などが現れるようになり、悪化するようなら発症の疑いがあるので、すぐに受診してください。
軽微な打撲であっても慢性硬膜下血腫を発症することがあるので、高齢の方が頭をぶつけた場合は、半年くらいまでは油断禁物です。
最後に「広島ドクターズ」の読者にアドバイスをお願いします。
生活習慣病というのは、ご自分が病気になったら患者さんも気を付けてくれるんですが、脳卒中になる前に気を付けてくださいとお願いしても、なかなか病気になる実感がなくて、皆さん油断してしまうんですね。
脳卒中は発症してしまうと、重い後遺症が残ったり、最悪の場合は命を奪われてしまう病気です。1人でも多くの方が脳卒中にならないように、予防の大切さを理解してもらえるよう、口酸っぱーくして伝えていかないといけないと思っています。
最後に、これから夏に向けて暑くなる季節です。予防のために運動するのはいいことですが、体を動かして体温が上昇した後に、いきなり冷房の効いた涼しい部屋に入ると、急激な温度の変化で血管に大きな負担がかかり、脳卒中発作のきっかけになることがあるので、注意して頂けたらと思います。
医師のプロフィール
谷口栄治先生
●広島大学医学部卒業
●広島大学医学部脳神経外科教室入局
●国立呉病院(現 呉医療センター)
●広島大学医学部脳神経外科 助手
●呉医療センター
●世羅中央病院脳神経外科 部長
●東広島医療センター
‐資格・所属学会‐
・医学博士
・日本脳神経外科学会 専門医
・日本脳神経外科学会
・日本脳神経外科学会コングレス
・日本脳腫瘍病理学会
・日本脳卒中学会
・日本頭痛学会