(この記事は2014年4月16日時点の情報です)
山西裕司 先生(内科)
関節リウマチは早期治療がポイント。「朝のこわばり」は要注意!
広島リウマチ・内科クリニック
【住所 広島県広島市中区鉄砲町10-13 八丁堀伊藤久芳堂ビル3F
【TEL】 082-221-6610
山西院長は数千例の自己免疫疾患に携わってきた関節リウマチのエキスパート。
朝、起きた時に手の指が動かしにくくて、こわばることはありませんか? 「朝のこわばり」から、関節リウマチに気付くことが多いと言います。ですが、この「関節リウマチ」という病気、耳にすることはあるものの、どんな病気なのか知らない人も多いのではないでしょうか。「お年寄りの方がかかる病気でしょ?」と、間違った理解をしていませんか?
今回は、中区八丁堀にある「広島リウマチ・内科クリニック」の院長で、リウマチ専門医である山西裕司先生に、関節リウマチのメカニズム、症状、治療について、詳しく説明して頂きました。
関節リウマチは早期治療がカギとなります。初期症状で見られる「朝のこわばり」は病気の発見につながる重要なサインなので、皆さん覚えておいて下さいね。
関節リウマチとはどのような病気ですか?
関節リウマチは一言では説明しにくい、難しい病気です。
人間の体の中には、細菌やウイルスなどの病原体から守る免疫というシステムがあります。本来、そうした外敵から自分自身を守るための免疫システムのコントロールが狂ってしまい、免疫システムが自分自身の体を攻撃してしまうのが膠原病(こうげんびょう)という病気の集まりです。その中でも免疫システムが関節を攻撃してしまい、関節に炎症が起きる病気が関節リウマチなのです。
関節に炎症が起こることで関節部分に痛みや腫れ、赤みを生じ、進行すると関節が破壊され、変形が見られるようになります。
すなわち、関節リウマチは膠原病の1つであり、膠原病の中で最も患者数の多い病気です。
炎症だけでなく、骨の変形が起きてしまうのはなぜですか?
関節は骨と骨とが連結し、曲げ伸ばしをする部分で、その表面はクッションの役目を果たす軟骨と呼ばれる組織で覆われておりますが、関節全体は滑膜(かつまく)という柔らかく薄い膜で包まれています。関節リウマチでは免疫異常によって、この滑膜という組織に炎症が起こります。滑膜に炎症が起こることで関節に痛みを生じ、異常に増殖した滑膜が周囲の軟骨や骨を破壊し、関節の変形を起こしてしまうのです。
手指、手首、足趾、足首、膝、肘など、全身にはたくさんの関節があります。いろんな関節が変形して動かしづらくなることで、服を着る、食事を作る、歩くといった様々な日常動作に支障が出てしまいます。
フランスの印象派の画家、ルノワールが関節リウマチに苦しんだというのは有名な話ですが、病気が悪化して自分で絵筆を持つことができなくなった彼は、変形した手に絵筆をくくりつけて作品を描いていたと言われています。
関節リウマチという病気は痛みや腫れが辛いだけではなく、関節の変形によって体の機能が低下してしまい、日常生活に様々な支障をきたす点が大きな問題です。
関節の痛みや腫れだけではないのですね。
関節リウマチを発症すると、発熱、疲れやすさ、全身倦怠感、貧血といった全身性の症状を伴うことがしばしばあります。また、関節だけに病変が現れるのかというと、実はそうではありません。免疫細胞というのは全身を駆け巡っているので、免疫異常によって関節以外の臓器にも病変が生じます。
中でも多いのが肺疾患ですが、その他にも皮膚、眼、心臓、末梢神経など全身の様々な臓器に悪影響を及ぼすことがあります。また、関節リウマチの患者さんは動脈硬化が進みやすいと言われており、狭心症や心筋梗塞のリスクが高まるなど、関節リウマチは生命予後にも関わってくる怖い病気だと言えます。
実際、関節の痛みとはどのようなものですか?
数カ所の関節だけが痛む方もいれば、全身の何十カ所という関節に痛みがあって、寝返りも打てないという方もいます。痛みの程度も人それぞれで、軽症の方から骨が壊れるような強い痛みがあり、死んでしまいたいほどだと表現される方もいます。ましてや、その痛みというのは一瞬ではなくずっと続くものですから、関節リウマチを患っている患者さんの苦痛というのは計り知れません。関節リウマチを長年、専門に診ておりますが、関節リウマチは病気の中でも患者さんにとって最も辛い病気の1つであると思います。
どんな初期症状で関節リウマチに気付くことが多いですか?
過労や疲労による関節痛であれば、その作業を行っている最中や夕方になってから痛みが強くなることが多いのですが、関節リウマチの場合は、朝起きた時に手の指や足の指、膝などの関節が腫れぼったくて動かしにくいことで病気に気付くことがあります。
これは「朝のこわばり」と呼ばれるもので、関節リウマチに見られる特徴的な症状の1つです。朝のこわばりは必ずしも朝に限らず、昼寝をした後や安静にした後でも起こります。しばらく経つと普段通り動くようになりますが、起床時のこわばり症状が何日も続くような場合は、関節リウマチの可能性を疑います。
関節リウマチで症状が一番現れやすい部位は、手の指の関節です。特に、第二関節と指の付け根の関節に痛みやこわばりを感じることが多いです。あとは、手首と足の指が多いですね。その他、肘、肩、膝、足首などいろんな関節に症状が現れることがあります。
対称的な部位が痛くなるケースが多く、右手首に痛みを感じていたところ、しばらくすると左手首も同じように痛くなることもよくあります。使い過ぎが原因の関節痛であれば、右利きだと右の手首だけが痛くなるものですが、普段あまり使わない左手首が痛かったり、思い当たる原因がないにも関わらず持続的に関節が痛んだり腫れたりするような場合は、関節リウマチを疑うポイントになります。
年を取るにつれて発症しやすい病気ですか?
関節リウマチは高齢者特有の病気ではありません。おもに整形外科が専門に扱う変形性関節症は、体質的素因や加齢、使い過ぎによる関節へ負担などにより、痛みや変形が生じるものですが、関節リウマチの場合は免疫異常が原因ですから、10代、20代の若い方から80代、90代のお年寄りまで幅広い年齢の方に発症します。
性別でみますと、関節リウマチになる確率は女性の方が高く、男性の3倍から4倍と報告されています。女性ホルモンの関与が疑われておりますが、なぜ女性に多いのか?、詳細には明らかにされておりません。
家事や育児や仕事で忙しく、家族から最も頼りにされる30代から50代の働き盛りの方に突然降りかかるのも、この関節リウマチの厄介なところです。病気のため仕事が続けられなくなり、退職を余儀なくされる方も多く、患者さんが受ける社会的、経済的なダメージが大きい病気と言えます。
関節リウマチは遺伝するのでしょうか?
両親が関節リウマチを患っている場合、その子どもが関節リウマチになる確率は約5%だと報告されています。関節リウマチの一般的な発症率は0.5〜1%と言われているので、家族歴のない人と比べると確かに発症率は高くなりますが、遺伝が大きく関係すると言えるほどの高い数字ではありません。遺伝子だけで決まるのではなく、環境要因がより大きく関わってくるわけですが、根本的な原因については不明な部分が多いんです。
明らかに発症リスクを上げると言われているのは、喫煙と歯周病です。歯周病は細菌感染によって歯茎に炎症が起きている状態ですが、慢性的な感染が免疫異常を起こし、関節リウマチ発症のリスクを上げるメカニズムが考えられています。ただ、タバコを吸わない人でも、歯周病でない人でも関節リウマチにかかる人は数多くおられますので、安心できません。
ウイルスや細菌の感染がきっかけで発症する人や、妊娠や出産を契機に発症する人、ストレスが原因で発症する人、傷やケガが契機で発症する人など様々です。中には、何十年ぶりに富士山を登山して、その後から関節リウマチの症状が出たという人もいます。
関節リウマチを引き起こす原因は1つではなく、複数の要因が多岐に渡って複雑に存在するため、特定するのが難しいというのが実情です。
関節リウマチの診断はどのように行うのですか?
関節リウマチの早期診断というのは非常に難しく、問診、触診、血液検査、画像検査などの結果を総合的にみて診断します。
まずは患者さんの自覚症状について、朝のこわばりがあるか、関節に痛みや腫れがあるか、などを伺います。実際の診察では、全身68か所の関節を診ていき、指で押さえると痛いか、腫れがないか、赤くなっていないか、熱感があるか、関節を動かすと痛いかを調べていき、関節に炎症がないかひとつひとつ細かくチェックします。
血液検査では、炎症反応とリウマチに関する自己抗体が参考になります。血沈(赤血球沈降速度)とCRPの数値から炎症の程度を把握し、リウマトイド因子や抗CCP抗体検査から、リウマチに関する自己抗体の有無を調べます。ただこれらの検査は、関節リウマチの患者さんの7割程度しか異常値を示しませんので、あくまで診断の参考材料として行います。あとは、レントゲン検査で軟骨や骨が壊れていないかを確認し、それぞれの結果から総合的に判断します。
病気の進行速度は人によって異なりますが、早い人だと関節リウマチを発症して3,4ヵ月で骨が壊れていきます。基本的に一度壊れた骨は元には戻せません。関節リウマチは早期発見がとても重要であり、診断がついたら直ちに治療を開始することをお勧めします。
どんな治療を行うのですか?
薬物療法、手術療法、リハビリテーション療法がありますが、治療の中心となるのは薬物療法です。
関節リウマチにおける薬物療法の目的は、病気の治癒を目指すものではなく、痛みや腫れを和らげ、関節破壊を食い止め、病気をコントロールしていくことが重要になります。
かつて使われていた薬は、痛みを軽減するものが主流でしたが、1999年に抗リウマチ薬「メトトレキサート」が、2003年に生物学的製剤という画期的な薬が承認され、関節破壊の抑制を目指した薬物療法が急速に発展しました。
メトトレキサートは、服用することで関節破壊を抑える効果があり、海外、日本において標準的治療薬として最もよく使われている飲み薬です。一方、生物学的製剤は炎症を速やかに抑えるだけでなく、格段に強い関節破壊を防ぐ効果があるお薬で、投与方法は皮下注射か点滴となります。高い効果が期待できる優れたお薬ですが、難点としては治療費が高額なことです。
すでに骨の変形が進み、関節機能を回復させる場合は、人工関節手術を含む整形外科的手術が必要となりますが、基本的には、出来るだけ早い段階に、お薬で病気の進行を止めて関節破壊を防いでいくことが、現在の関節リウマチ治療の基本です。
リウマチ専門医についてお聞かせください。
世界各国の製薬メーカーが競って治療薬の開発を進めており、関節リウマチの治療は劇的に進化しました。ただ、関節リウマチの治療薬というのは難易度が高いものが多く、治療で最もよく使われるメトトレキサートも、血液障害、薬剤性肺炎、肝障害、などの重篤になりうる副作用が起こることがあるため、緊急時の措置や関節リウマチの症例について、熟知した専門医が取り扱った方がよいでしょう。
免疫に作用する薬というのは副作用の管理が難しく、投薬に当たっては定期的に血液検査を行って患者さんの健康状態を把握し、安全かつ慎重に扱わなければならないものが多いんです。ただ単に薬を処方すればよいというわけではなく、そこには経験と知識が必要になってきます。
私は内科の中でも、免疫異常の病気である膠原病を診る科に長年携わってきました。以前、広島にはリウマチを専門に扱う医療機関はほとんどなかったのですが、広島市民病院にリウマチ科が開設されることになったために広島に戻り、6年勤務した後、平成21年に「広島リウマチ・内科クリニック」を開院しました。
少し前までは、関節リウマチは整形外科の先生方が専門的に診ることが多かったのですが、治療薬の開発が進んだ今では、副作用の管理は内科が得意とするところですので、当院にも整形外科の先生からのご紹介で来られる患者さんも多いです。
関節リウマチ・膠原病の専門治療を求めて、遠方からも多くの患者が訪れる
病気を克服される方は多いのでしょうか?
関節リウマチの治療というのは、治癒(ちゆ)を目的とするものではありません。例えば風邪が治るというように、風邪を起こすウイルスを完全に排除して治療なしで健康な状態に回復するのではなく、治療によって進行を抑えて病気をコントロールし、日常生活に支障のない状態にもっていくようにします。これを寛解(かんかい)と呼ぶのですが、関節リウマチの治療では、痛みも腫れもなく、関節がちゃんと機能して治ったような状態を目指していきます。
一昔前は、関節リウマチが進行して寝たきりになる方がたくさんおられた時代もありましたが、関節破壊を抑えることのできる薬が開発されるようになり、病気の進行を食い止めていい状態を維持できる方が増えました。実際に患者さんの中にも、リウマチが良くなって仕事に復帰できた、海外旅行に行けるようになった、ゴルフやテニスが楽しめるようになったという方がたくさんおられます。
ところで、温泉はリウマチに効果があるのですか?
一般的に炎症を起こした部分は、温めるよりも冷やす方が良くて、野球のピッチャーなら投げ終わった試合の後に、炎症を鎮めるためにアイシングで肩を冷やします。1日に何回も温泉に入って、熱を持った関節を長時間温めてしまうのは、炎症を悪化させる可能性があるので避けた方が良いでしょう。温泉に気持ち良く入って、美味しい食事でも食べて、ストレス発散し、リラックスできるのなら、いいと思いますよ。
当院はリウマチの専門治療を受けるため、島根県や山口県など遠方から来られている患者さんも多いです。場所が広島の中心街にあるため、診療後に近くのデパートで買い物をしたり、ご家族で食事をされたりと、通院の際に気分転換ができると喜んで下さる方もいらっしゃいます。関節の痛みは他人には分かりづらいものですが、ご本人にとってはとても辛い病気ですので、治療中のリフレッシュも必要だと思います。
わざわざ遠くから通われている方にとって、満足のいく治療を提供することが、リウマチ専門医としての大きな目標ですね
最後に「広島ドクターズ」の読者にアドバイスをお願いします。
痛みを辛抱強く我慢される方もいらっしゃいますが、長期間経過してしまうと、治療を開始する時点で関節がすでに壊れて変形していることもあります。
この関節リウマチという病気は、早期に診断をして、早期に治療を開始することがポイントです。関節にこわばりや痛みが起きて、それが続くようであれば、早いうちに専門医に相談してほしいと思います。
医師のプロフィール
山西裕司先生
●広島大学医学部卒業
●広島大学大学院卒業(医学博士取得)
●米国カリフォルニア大学サンディエゴ校 リウマチ・アレルギー・免疫学教室 博士研究員
●東京女子医科大学 膠原病・リウマチ・痛風センター 助手
●広島市立広島市民病院 リウマチ科 部長
●広島市立広島市民病院 リウマチ・膠原病科 部長
‐資格・所属学会‐
・米国リウマチ学会 フェロー会員
・日本リウマチ学会 指導医・評議員・専門医
・日本リウマチ財団登録医
・日本シェーグレン症候群学会 会員
・日本アレルギー学会 専門医
・日本内科学会 総合内科専門医
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