(この記事は2013年8月5日時点の情報です)
松本幸嗣 先生(産婦人科)
生理が来ないから楽だと思わないで! 月経不順は体のメンテが必要なサイン
松本クリニック
【住所】広島市南区猿猴橋町2-11 広島駅前クリニックビル5F
【TEL】 082-264-7711
普通のネクタイだと診察の邪魔になってしまうため診療時は蝶ネクタイを着用する松本院長
生理が来ないと心配だけど、なければないで楽?! そんなふうに考えていませんか? 月経不順をそのまま放っておくと、卵巣の機能が低下して、将来の妊娠に影響が出てしまうことも。また、女性の体を守ってくれるホルモンが分泌されなくなることで、若くして更年期障害で苦しむことにもつながります。
今回は、「松本クリニック」の院長、松本幸嗣先生に、月経不順について伺いました。月経周期が乱れる原因や、どうしてダイエットやストレスによって無排卵が起きてしまうのかといったお話も聞かせて頂きました。
月経不順は、「体のメンテナンスが必要だよ!」という卵巣からのメッセージ。将来、不妊症や更年期障害で悩まないために、正しい月経の知識を知っておきましょう。
一般的に正常な月経とはどのようなものですか?
産婦人科学会の定義では、性成熟期の女性であれば25〜38日が正常な月経周期とされています。性成熟期とは10代後半から30代までの妊娠や出産するのに適した時期のことで、ストレスや体調によってリズムが乱れることはありますが、月経周期が比較的安定している時期です。
40代に入り更年期が近くなると、月経周期が乱れがちになります。2ヶ月に1回しか生理が来なかったり、逆に間隔が短くなったりと人によって様々ですが、45歳を過ぎて半年以上生理がなかったら、閉経を迎える時期にさしかかった兆候だと考えて良いでしょう。
あと出産後、母乳が出ている間は生理が来ないことが多いです。母乳をストップして生理が再開しても、母乳を出すホルモンが高いと生理不順が続くことがありますが、これは一時的なもので徐々に月経のリズムも落ち着いてきます。
月経血で注意したいことはありますか?
皆さんよく、月経血の色、におい、形状を気にされますが、血液の色は時間が経てば変色しますし、膣内にはいろんなばい菌が棲んでいるためにおいも変わってくるものなので、産婦人科ではそこはあまり重要視していません。
月経血の形状は、生理が始まって最初の1日から3日間は、子宮内膜が溶け出すためドロっとしていることが多いですが、後半になって新しい子宮内膜ができるとさらっとした血液に変わってきます。ゼリー状の血液が出て驚いたことがある方もいると思いますが、多すぎるのでなければ神経質にならなくてもいいでしょう。
月経血で産婦人科が一番気にするのは、実は貧血なんです。一般的には1日か2日、ナプキンを度々取り替えないといけない日があるというのが目安ですが、それ以上多い日が続く、昼間もナイト用のナプキンをしていないと漏れてしまうような場合は、過多月経の疑いがあります。
出血量が多いと、血液を作る能力が高い人はいいのですが、貧血で日常生活に支障が出ることがありますので、婦人科で相談された方がいいですね。
月経周期の乱れる原因は何ですか?
本来は順調に生理が来るはずの性成熟期の女性が、妊娠してないのに2か月以上生理が来ないなど月経周期が極端に乱れている場合は「無排卵月経」といって、排卵するのに時間がかかったり、生理だと思っていた出血が実は卵が出てない出血だったりすることもあります。最近、若い女性に多いのが、「多嚢胞性卵巣」というもので、卵巣に卵がいっぱい育つんだけど排卵しないタイプの人も増えています。
それが今すぐ問題になるわけではありませんが、無排卵性月経を放置していると卵巣機能が低下してしまうため、将来「赤ちゃんが欲しい!」と思った時にそこで悪影響が出ることは十分考えられます。基礎体温を付けたり、必要があれば産婦人科で超音波による診察を受けて原因を確認するなど、将来の妊娠に備えて卵巣を健康にしておくことが大切です。
ダイエットが月経不順に影響するそうですが。
ダイエットによる極端な体重減少や、ダイエットでなくても引っ越しや転職で生活環境が変わって体重が減ったり、ストレスが溜まっている場合に、月経周期が乱れることが多いですね。なぜだと思いますか?
妊娠、出産は、女性の体にとってとても負担がかかることです。ダイエットで食事制限していると、脳が「食べるものがないんじゃないか?」と勘違いしてしまうんですよ。こんな食べるものがない時に妊娠したら困る、じゃあ妊娠すまい、排卵を止めよう、生理を止めよう…、体がそういう風に考えてしまって、生理が来なかったり、妊娠しにくくなったりするんですね。この状態で妊娠すると自分の体にとって良くないから今はやめておこうと、自分の体を守るために無排卵や無月経になってしまうのです。
昔は改善が難しいと言われていましたが、体重が増えてストレスが軽減されれば月経周期が正常に戻ることが多いです。
痩せたいと思う女性が多いですが、女性は脂肪が付いているのが当たり前で、脂肪に含まれるコレステロールもすべて悪者というわけではありません。中には女性ホルモンを作るために必要なコレステロールもあるのですから、痩せ過ぎは決して魅力的じゃないんですよ。
だから、極端なダイエットはしないこと、規則正しい生活を送ること。友達と遊びに行って寝なかったとか、たまにならいいですが、慢性的にそういう状態を作らない方がいいと思います。若いからといって無理をしすぎないことですね。
月経不順があれば、すぐに産婦人科に相談した方がいいですか?
2か月に1回生理があって体調に問題がなければ、「早く検査・治療を!」と、それほど強くは勧めませんが、体調不良が伴うのであれば受診した方がいいですね。また、異常な状態が長続きしてしまうと、排卵しにくい状況を作ってしまうため、将来妊娠を希望している20代30代の方は、あまりにも生理が不順な場合は1度産婦人科に相談した方がいいかもしれません。
一般的に閉経は45歳以降に迎えますが、早発閉経といって、30代で生理がほとんど終わってしまうような場合もあります。不妊治療の方には困るのですが、たまに若くして妊娠希望がない方がおられ、「もう子供を産むつもりはないので、治療の必要がないのでは?」と質問されることがあります。「生理がない方が楽でいい」とおっしゃるのですが、それは大きな間違いです。生理が早くなくなってしまうということは、若くして老化が始まってしまうことなんですよ。
卵巣から分泌される2種類のホルモンのうち、エストロゲンは女性の老化を抑える働きがあると考えられています。閉経を迎えるとエストロゲンの分泌は急速に低下します。その影響で、骨がもろくなって骨粗しょう症になったり、コレステロール値が上がりやすくなります。
一般的に50歳くらいまでは、エストロゲンが女性の体を老化から守ってくれるのですが、30代の早いうちから老化が進んでしまうと将来的に困ることも多いです。見た目も、実年齢より老けて見えてしまいますよ。女性の皆さん、嫌ですよね?!
出産も済んだし、あるいは出産は考えてないからといって、「生理がないから楽ちん」だと考えてはいけません。生理は妊娠・出産のためだけでなく、女性の体を守るボディーガードでもあるのです。
月経不順の治療はどのようなことを行うのでしょうか?
まずは月経不順の原因を突き詰めていくため、検査を行います。治療にはいろいろな方法がありますが、年令によって異なります。妊娠希望、あるいは30代の方には基本的には排卵誘発を行います。経口排卵誘発剤、HMGなどの注射、更に最近は自己注射できるFSHもあります。妊娠希望がない、あるいは40代の方には経口排卵誘発剤が無効であれば、ホルモン補充療法を行います。無月経を放置することはお勧めできません。エストロゲンが低下すると早く老化が進み、骨粗鬆症、高コレステロール血症になり易くなります。ホルモン補充療法は従来の経口剤から皮膚から吸収されるパッチやゲルに変わってきています。肝臓に負担がなく使用しやすいです。また膣炎がある方にはエストロゲン膣錠が有効です。
広島駅から徒歩3分と交通アクセスが良く、毎週土曜日の午後診療も行っている。
生理痛が辛い方に、何かアドバイスはありますか?
日本の女性は我慢強いですから、生理痛でも鎮痛剤を使わない方が多いんですよ。頭痛や歯が痛い時は痛み止めを飲むのに、生理痛でお薬を飲むのは良くないと思っているのか、我慢してしまうんですね。市販薬の説明書には、「効能:頭痛・歯痛・生理痛」って書いてあるでしょ? 同じお薬なので、体に悪いんじゃないかと心配せずに、生理痛で辛い時は我慢しないでお薬に頼ってもいいと思います。
痛みを感じる物質が体内にたくさん出た後だと、お薬の効果が現われるのに時間がかかってしまうので、お薬を飲むタイミングは、痛みがピークに達してからではなく、「痛くなりそうだな」と思った時に服用するのがいいでしょう。
最後に「広島ドクターズ」の読者にアドバイスをお願いします。
今の女性は、皆さんキレイにされていて、実際の年齢よりもずっと若く見える方が多いです。20代後半ぐらいかなと思っていたら実は40代で、驚かされることも度々あります。若さを保つ努力をされているのは大変素晴らしいことですが、体型がスリムで健康的で、外見が若く見えても、卵巣は正直に年を取るんですよ。
そろそろ子供を作ろうと思って受診に来られる方は、30代後半から40代にかけて多いのですが、30代後半になると妊娠率は必ず下がります。なかなか妊娠できなくて苦労される方も多く、「もう少し早く来てくれたら…」と、悔しい思いをすることもよくあります。
女性が社会に出て活躍する機会が増え、「いつかそのうち」と思っているうちに、出産のタイミングを逃してしまうこともあると思います。望まない妊娠を避けるためにピルを飲んで避妊することも大切ですが、長く避妊をし続けることはやはり良くありません。よく冗談半分で、「結婚は何歳でもできるけど、出産は期間限定ですよ」と話すのですが、産婦人科医としては本音とも言えます。
「まだまだ若いし」と思っていても、卵巣は若くないかもしれません。いつか子供を産みたい、いつかはお母さんになりたいと思っている人は、「何歳くらいで妊娠しよう」といった目標をもって、自分の将来を考えてほしいですね。
医師のプロフィール
松本幸嗣先生
●広島大学医学部卒業
●広島大学医学部産婦人科勤務
● 尾道総合病院産婦人科勤務
●広島大学医学部麻酔科研修
●町立西城病院産婦人科勤務
●米国コロンビア大学研修
●広島県立安芸津病院産婦人科勤務
●英国ハマースミス病院・独国キール大学短期研修
●井原クリニック勤務
‐資格・所属学会‐
・日本産婦人科学会認定医
・日本産婦人科学会
・日本生殖医学会
・日本産婦人科乳癌学会
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